法人の節税対策はどのようにすればいいかご存じでしょうか。
節税は一歩間違えれば脱税となり、違法と見なされることもあるため慎重に行う必要があります。
この記事では、法人税の節税について知りたい方に向けて、次のように解説していますので参考にしてください。
- 節税対策とは? 基本的な考え方
- 節税対策の4分類
- 期中に考慮すべきこと
- 節税対策の注意点
法人における節税対策とは? 概要を整理しよう
対策するべき法人税についておさらいしよう
会社という集合体に人格を与え、権利や義務が発生するのが法律上の法人です。法人税とは、法人が事業を営むことによって得た利益に課される税金のことです。
税法上の収益である「益金」から、税法上の費用である「損金」を差し引いた所得に税率をかけ、控除要素を除いたものが法人税となります。会社は年度末の翌日から2か月以内に、税務署に法人税の申告および納付を行わなければなりません。
個人が得た利益に対してかかる税金を所得税と呼び、法人税とは分けて考えるので注意しましょう。
法人において「節税」とはどういうことを指すのか?
法人における節税とは、課せられる税金を合法的に圧縮することを指します。非課税制度、税制優遇等をうまく活用することによって、負担を抑えることを目指します。
一方、法律から逸脱する手段を用いて税金を減らすことは脱税となり、違法です。
また、税率の低い国に所得を移動させる等、社会通念から逸脱した方法で税金を免れることを租税回避と呼びます。
租税回避は違法ではありませんが、公平な税金負担の観点から、社会通念上認められないものです。節税は合法であり、脱税および租税回避とは全く異なるものです。
節税の基本的な考え方は3つ
法人の節税方法として代表的なものは以下の通りです。
- 益金を減らす
- 損金を増やす
- 税金控除制度を活用する
益金から損金を引いた所得に税率をかけ控除分を除くのが法人税の計算方法です。益金を減らすか、損金を増やすことで、課税対象である所得を減らすことができます。
また各種控除制度を使用し、課税対象額を減らすことも節税方法の代表的なものです。
以上3つは、いずれも課税対象額を減少させることを目的としており、節税の重要な考え方となっています。
出過ぎた利益をどうするか? 節税対策は取り組む順番がある
では課税対象額を減少させるため、何をすべきなのでしょうか。
節税対策にはお金が必要なものと不必要なものに分けられます。大きく分けて以下4つに分類されます。
- 王道的節税:業務改善等、お金のかからない節税
- 投資型節税:社員教育を費用に計上する等、お金は必要だが将来に繋がる節税
- 保守的節税:保険金を費用に計上する等、お金はかかるが会社を守るのに役立つ節税
- 消費型節税:商品やサービスを購入して課税所得を減らす節税
まず最初にお金のかからない王道的節税を行った後、その他の節税対策に着手するのがベターです。4つの中でも注意すべきは消費型節税で、利益を直接減らす行為ですので多用は厳禁です。
法人が節税対策を行う際に押さえたい「自社の利益」と「スケジュール」
節税対策を実行するにあたって押さえておかなければならないのが、自社の利益を把握すること、スケジュール管理することの2点です。
費用がかさみ、会社が利益を生み出せていない状態で節税対策を行っても効果がありません。利益がしっかりと生み出せているかを把握することが求められます。
また、決算が終了してから節税対策を行おうとしても不可能であるため、時期ごとに節税対応を行っていくことが求められます。年度のはじめからスケジュール化を行い節税対策を考えることで、効率の良い節税に繋がるのです。
では次から時期ごとにどのような行動を行うべきなのか、具体的に確認していきましょう。
節税対策に欠かせないスケジュール管理を時期毎に解説
年度当初|納税と節税の計画を検討・立案する
年度内のどの時期かによって、取るべき対応は変化します。
事業年度が終了したら、新しい年度のどの時期に税金が発生するのかを確認し、スケジュール化することが重要です。
どの時期にお金が必要なのかがわかるため、王道的節税以外のお金がかかる節税にいても資金拠出しやすくなるというメリットも生まれます。
税金と節税対策のスケジュール化は節税の第一歩となる重要なものです。
決算3か月前|仮の決算を行って利益と経費の状況を確認する
決算の3か月前には税金の仮計算を行いましょう。
今季9か月の利益は確定しているので、残り3か月の売上、仕入、経費の計画から残りの期間の利益を予測していきます。売掛金や前受金も考慮し、決算までの売上予測を立てていきましょう。
次に、減価償却費や必要経費等を予測して売上予測から差し引き、予想される利益を求めます。
これを可能な限り毎月実施することにより、会社の売上、経費、利益を把握できている状態が維持できるのです。
決算3か月前~決算直前|追加でできる節税対策の検討を行う
決算3か月前から決算直前までで、節税対策を考えていきます。
今できる節税の種類を考えるとともに、業務改善や保険の状態等、自社に特徴的な節税が可能かメスを入れていきます。王道的節税についてはリスクがなく費用もかからないため、重点的に実施していきましょう。
不良在庫の削減や固定資産の削減も節税対策として効果的です。決算3か月前からに限ったことではありませんが、在庫の流れや固定資産については早くから注目し、計画的に削減していきましょう。
従業員に対する決算賞与はモチベーションアップが期待できるため、非常に有効な節税対策です。
決算後~2か月以内|納税の予定をスケジュール化しておく
決算後の2か月間は税金の申告のための期間です。
いつ、どのくらいの税金を納めることになるのかを把握しておくために納税の予定をスケジュール化しておきましょう。スケジュール化しておくことで、節目ごとに会社に残すべきお金を考慮しつつ会社を運営できるからです。
また、決算後に株主総会を実施する企業もあると思います。役員報酬については損金に計上できるため、節税を意識して改定することで大幅な節税に繋がります。
役員報酬の額は新しい事業年度の開始から3か月以内のみ改定できるので、計画的に実施することを検討してください。
節税対策で実践できる裏ワザ的方法を4つの分類に分けて紹介
1.王道的節税で取り組む方法
新たにお金をかけずに節税ができる王道的節税は、最優先に検討すべきであり、効果が大きい節税対策です。
王道的節税の中でまず検討すべきなのが役員報酬を増やすことです。役員を増やしたり役員報酬を増やし損金を増加させることによって法人税を抑えることが可能になります。
しかし、逆に所得税や住民税の負担が増加し、トータルで見て税金が増えてしまったということになりかねません。法人税とその他の税金のバランスを考慮した上で役員報酬を設定することで、最大の節税効果が期待できるのです。
また、在庫や資産の見直しも行うべきです。古い在庫や使用していない設備で処分できるものがないか検討し、固定資産除却損として計上することで損金にすることができます。
固定資産税を減少させる効果もあるため、積極的に行いたい節税対策です。
2.投資型節税で取り組む方法
節税のために投資するのは本末転倒の印象がありますが、投資型節税は将来的にわたって会社に良い影響をもたらすため積極的に実施すべきです。
予期せぬ利益が発生した時に行う決算賞与の実施は、支払う税金とのバランスを取る目的で実施されることが多い投資型節税です。
決算賞与の実施は従業員のモチベーションアップに繋がり、社員の生活を守るという企業の使命を果たす企業というイメージを社外にアピールできるため効果がある節税対策です。
同様にセミナー代等の社内教育や、社宅を福利厚生として社員に用意する等も投資型節税として効果的です。会社が潤った分を社員へ還元することで愛社精神が向上するとともに、社員の能力アップに繋がるため会社の成長に有効な投資になると言えるでしょう。
また、より低コストでの商品製造が可能になる設備を導入することも将来にわたって原価を下げるため、投資型節税の代表的なものに挙げられます。
3.保守的節税で取り組む方法
会社の運営は山あり谷ありです。会社を守るということについて全く興味がないという経営者はいないでしょう。従って、会社を守ることと節税を同時に実現する保守的節税は実施する価値がある節税方法と言えるのではないでしょうか。
具体的には生命保険や中小企業倒産防止共済制度へ加入することで、保険料を損金に計上することができます。さらに、共済の掛け金は40か月以上払っていた場合は全額返金される制度があります。受け取った時点で益金となるためタイミングには注意しましょう。
加えて、小規模企業共済に加入すれば、廃業時に一時金を受け取ることができるほか、場合 によっては融資を受ける際に役立つこともあるため、上手に利用すべきです。
会社を守ることは経営者としてまず考慮すべきことであるため、同時に節税となる保守的節税を導入することは非常に合理的です。
節税対策の選択肢を増やす意味でもよくチェックしておきましょう。
4.消費型節税で取り組む方法
王道的節税やその他の節税対策を実施した後で、さらに節税を行いたい場合に検討するのが消費型節税です。
継続的に使用する事務用消耗品等は、資金がある時にまとめて購入したほうが節税になるばかりか、まとまった数を購入することによる割引も期待できるためお得になります。
しかし、節税のために無駄で必要ないものを購入し利益を減らすのは本末転倒です。
節税し過ぎることで生まれるデメリットもあるため、消費型節税は税理士と相談しながら実施するにとどめたほうが無難です。
法人が節税対策を行う際に気をつけたい3つの注意点
1.節税対策への経費のかけ過ぎに注意する
節税対策にはお金がかかるものとかからないものがありますが、お金がかかる節税対策を過剰に実施すると会社の運転資金を使ってしまうことになりかねません。
お金のかかる節税対策を実施する際は、かける費用と効果を考慮し実施するようにしましょう。
さらに、会社の未来のために役に立つものや、会社を守る以外のお金のかかる消費型節税は、無駄に利益を減らすリスクが高いため、頻繁に行わないほうがよいでしょう。
2.会社の経営状況の把握ができるよう整理しながら行う
節税対策を行うことで、本来の利益や費用が見えにくくなり、経営状況が把握しづらくなることがあります。利益の先送りや費用の前倒し計上等が影響し、後の決算で想定外に大きな税金を一度に課されたため会社運営が行き詰まることは避けなければなりません。
よって、納税のスケジュール化をしっかりと行い、税金支払いのためのお金がプールできている状態を保つことが健全な経営のためには不可欠となります。
3.社会的信用を落とさない程度に行う
節税対策は、損金を増やして所得を減らすことが基本です。
しかし、所得が少ない状態は、同時に経営状態が悪いとみなされるリスクがあります。経営状態が悪いと社会的信用が落ち、融資が通りにくくなり資金調達ができなくなったり、取引先から信頼されなくなり売上の減少に繋がります。
会社の利益は、経営状態を計る上で重要な指標です。税金の減少と社会的信用の悪化のリスクを秤にかけながら節税対策を検討していくことが安定経営に求められるのです。
【まとめ】法人税の節税対策について押さえよう
節税は脱税とは違い、合理的に税金を減らすことができる、企業にとっては利益を残すためになくてはならない考え方です。節税対策を実施する前にキャッシュフローおよび税金を支払う時期をスケジュール化しておくことが、実施できる節税対策を検討する上で重要です。
節税対策を実施する際には、費用がかからない王道的節税ができないかまず検討しましょう。
また、節税対策はやればやるだけ税金が少なくなりますが、社会的信用が低くなります。
融資や取引先との関係に影響を及ぼすため、バランスを常に考え実施する必要があるのです。